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きんもくせい
ああ
そうか
この 香り

金もくせいの花の香り

ひとはすぐ 去年のことすら
忘れてしまうのに

木は 律儀に
儀式をひっそりと
くりかえす

誰も みていない 林の奥で

   忘れたくなかったことも
   忘れたかったことも

   ふっと そよぐ 風のなかで
   ほのかに 蘇る

   ちょうど ひそやかな 胸騒ぎのように


ああ そうか
この 日差し
金橙色の 秋の日差し
かぐわしい 金色の無数の花弁
光をまぶした 樹の根元

だんだんに 色濃くなってゆく
黒々とした 影

  樹の幹に映る 樹の影

  しのびこむ 夜の気配


  (風が 凪いでも まだ
   いつのまにか ゆっくりと 散ってゆく 光の粒)




   いつのまにか 肺を満たす
   むせかえるような 甘やかな死の香り
   に
   わたしは 立ち去ることもできぬ・・・

 

30歳のとき書いたもの。