あなたに
わたしたちは ついぞ

抱き合うことはなかった

お互いが お互いの迷路であったから

わたしは あなたのそばで途方に暮れ

あなたもまた わたしの横で迷子になっていた

行くことも

帰ることもできなくて

ただ しくしくとあなたは泣き出し

そしてわたしは

ますます すねてゆくのだった

 

 

あれから十年

夢や 時や 憤り

過ぎ去るものを じっとこらえて

わたしはまだ 同じ場所にいる

あの時の迷子のままで 

高野喜久雄

詩集 <存在>所収

「現代詩文庫」思潮社

お互いが お互いの迷路であったから」・・・・・・