崖くずれ
だれの心も

見えないけれど険しい山々だ

切り立つ断崖だ

登りきれたためし無く

頂には 舞う鳥も無い

道も無く しるべも無い

何も無い きびしい山々

ただ 深くもだすものだけに

時折かすかに 聞こえてもいた

崖くずれ

 

高野喜久雄

詩集 <存在>所収

「現代詩文庫」思潮社

心のなかでおこる崖くずれの音。