出 発
どこか遠くのほうから見ていたい

感動している自分を

感動して我を忘れてとんでゆく自分を

どこか遠くのほうから見ていたい

息を切らしてしまってはいけない

よそ見をしてはいけない

心ひそかにそう念じながら

どこか遠くのほうから見ていたい

あおいじつにあおい

その遠くの空の彼方へ

今はそれだけが私の仕事だ

荒々しく私は私を投げつける

紋白蝶のように軽々と行ってしまうようにと

眼をとじながら私は私を投げつける

足元に落ちて高雅な陶器のように砕けないようにと

黒田 三郎

詩集「失われた墓碑銘」所収

「現代詩文庫」思潮社

感動している自分を 自分の外側から眺めてみたい という欲求。

そうすることで 安堵するのであろうか。

自分はまだ大丈夫 自分の心は死んでいない と