ただ過ぎ去るために 
     
より抜粋
          7

生暖かい風のように流れるもの!

 
閉ざされた心の空き部屋のなかで
それは限りなくひろがってゆく

 
言わねばならぬことは何ひとつ言えず
みすみす過ぎ去るに任せた
あの五分間!

 
五分は一時間となり
一日となりひと月となり
一年となり
限りなくそれはひろがってゆく

 
みすみす過ぎ去るに任せられている
途方もなく重大な何か
何か

 
僕の眼に大映しになってせまってくる
汚れた寝衣
壁に醜くぶら下がっているもの
僕が脱ぎ 僕がまた身にまとうもの
黒田 三郎

詩集「渇いた心」所収

「現代詩文庫」思潮社

みすみす過ぎ去るに任せられている
途方もなく重大な何か

このような焦燥感が 自分のなかにも 常に存在する

それに鈍感でいられる人もいるけれど。

私は この焦燥感に突き動かされて
「一歩」を踏み出す決意をするのだ