(以上、アルバム「クリムゾン・キングの宮殿」より。 この訳詞の著作権は私にあります。無断転載、引用禁止)
(I TALK TO THE WIND)
まっすぐな男が
遅れた男に云った
−どこにいたの?−
−此処に
彼処に
そして その間にも――
私は風に語りかける
言葉は全部 運ばれていった
私は風に語る
風は 聴かない
風には 聴くことができない
私は外側にいて
中を観る
――何が見える?
私を取りまく
山のような混乱
幻滅の数々――
私は あなたがたのものではない
決して
心に留めることもない
そう 我が心を 掻き回すことも
教唆することも
指図することも
私に無駄な時間をとらせることなど 決して
私は風に語りかける
言葉は全部 運ばれていった
私は風に語る
風は 聴かない
風には 聴くことができない
(EPITAPH)
予言者達の書いた壁が
その隙間から砕けゆく
死の道具の上に
太陽は燦然と輝き
あらゆる人々が
悪夢と正夢とに引き裂かれているときに
勝利のしるしの月桂冠を置くもののいないまま
静寂が叫びを呑み込んでゆく
混乱
それが我が墓碑銘となろう
我が行く径は砕け崩壊した路
もしも うまくやれれば
くつろぎ 笑うこともできるだろう
だが
我は明日を怖れる
我が頬が涙に濡れているであろう明日を
運命の鉄の扉の間に
時の種子は蒔かれる
育むのは
知り 知られる者共
知識など命に関わる友人
誰一人 掟を定めないなら
私には見える
人類の運命は愚か者の手の中だ
混乱
それが我が墓碑銘となろう
我が行く径は砕け崩壊した路
もしも うまくやれれば
くつろぎ 笑うこともできるだろう
でも
私は明日が怖い
明日を怖れる
明日はきっと泣いている
明日が怖い
泣いているに違いない明日・・・・・
(MOONCHILD)
彼女を 月の子と呼ぼう
川の浅瀬で踊っている
淋しい 月の子
柳の陰で
夢見ている
蜘蛛の巣のおばけの
ようになった樹々に
語りかけ
泉の段々のところで
つと まどろむ
夜の鳥の歌声に向かい
銀の杖を振り
山の上で
お日様を待っている
彼女は 月の子
お庭で 花を摘んでいる
愛らしい 月の子
時の木霊に乗って
ただようのだ
ミルク色のガウンで
風に乗る
日時計の輪に
小石を落とし
夜明けの亡霊達と
かくれんぼ
そして
太陽の子からの
ほほえみを待っている・・・・・・
(IN THE COURT OF THE CRIMSON KING)
月の牢獄の錆びた鎖は
太陽に砕かれる
道を行けば水平線が変わる
――試合が始まったのだ
紫の笛吹はラッパを吹き鳴らし
合唱隊がやさしく歌う
古代の言葉の三つの子守歌
深紅の王の宮殿のための――
街の鍵番は
巷の夢にシャッターを降ろす
巡礼者の扉の外で待つ私に
たいした心構えもなし
黒の女王は 弔いのマーチを歌い上げ
ひび割れた真鍮の鐘が鳴るとき
それは 炎の魔女を召還するための合図
深紅の王の宮殿へ――
一本の永遠の緑の樹を植える庭師
その足元に踏みつけられた一輪の花
私はプリズムの船の風を追う
酸いも甘いも味わうために
詐欺師がその腕を上げれば
オーケストラの演奏の始まり、始まり
粉砕機の輪がゆっくりと回り始める
深紅の王の宮殿で―――
柔らかな灰色の朝
女達の叫び声
ジョークを楽しむ賢い男共
私は 予言をこの手に掴もうと
走り
いっぱい食わされる
黄色い道化師は 道化ることなく
そっと操り人形達の糸を引く
人形達は踊り 道化師は微笑む
深紅の王の宮殿で―――