私の好きな本

別役実 童話集「淋しいおさかな」より

「淋しいおさかな」あらすじ

広い野原のまんなかに 女の子は住んでいました。

ある時から 毎晩 少女の夢の中に 一尾のおさかなが出てきます。

おさかなは涙を流しながら「淋しい、淋しい」というだけです。

女の子は「淋しいってどういうこと?」と聞きますが、おさかなはただ泣くだけです。 
ともだちの風さんに聞いてもわかりません。ある日とうとう 女の子は、夢の中のお
さかなに会いに行くために、旅に出ることにします。 風は止めますが女の子の決
心は固く、しかたなく風はついていくことにします。旅の途中で出会ったいろんな
生き物に女の子は「淋しいってどういうこと?」と尋ねますが、なかなか答えを得る
ことが出来ません。 ボロボロになって力尽きそうになったある日、とうとう海にたど
り着きます。 しかし いくら呼んでもおさかなは現れません。 「ずっと誰かが来る
のを待っていたようだったけれど どこかへ行ってしまった」と聞かされて、女の子
はぽろぽろと涙を流します。 「淋しい」ということばの意味がわかった瞬間でした。

「猫貸し屋」

老人ばかりの寂しげな街で、今日も猫貸し屋の呼び声が響きます。 
「猫いりませんか〜 おとなしい、猫」

淋しい一人暮らしの老人が、猫を借りるのです。

しかし 街の老人はひとり死に、二人死に、最後には 
街はひっそりと誰もいなくなってしまいます。

「ふな屋」

「ふな屋」とは、ふなと人を会話させるお仕事です。

お金を払って ふなとお話させてもらうと、ふながこう言うのが聞こえます。

「しあわせになれるよ きっと なれるよ」・・・・

今日も ふなとお話しようとする 寂しい人々が集まります。

「白いロケットのおりた街」

ある日 街の無線技師が不思議なSOSをキャッチします。
世界中のありとあらゆる言語で、「たすけて」と電波を送り続けているものが居るのです。
「たいへんだ! 助けに行かなければ!」と 心やさしき街の人々が総出で、SOSの主を捜します。

SOSの主は、街のはずれに墜落した白いロケットでした。

「たいへんだ! 中に居る人を助け出さなければ!」

人々は いっしょうけんめい、ロケットの入り口を探しますが、ロケットにはどこにも入り口らしきものが在りません。

「しかたがない! ロケットを壊して、助け出すんだ!」

そうして人々はロケットを必死で壊そうとし始めます。

すると SOSのメッセージが 激しくなります。 

ますます人々は早く壊そうと頑張ります。

「なんだか 悲鳴のようなものが聞こえなかったか?」

とうとう ロケットに裂け目が出来ます。

その瞬間 SOSは止み、ロケットからは 青白いためいきのようなものが漏れて 空に昇っていきました。

「たいへんだ! このロケットは この人の身体だったんだ!」

ためいきのようなものは ロケットの魂だったのです。

単行本は絶版になりましたが、いつのまにか文庫化されたようです。。 もともとNHKの「おはなしこんにちは」という番組のために書き下ろされたものです。 

19の時に、Y氏が悩める私に買ってくれた本でした。
秋の晴れた日の代々木公園の芝生の上に座って、この表題作を読み聞かせてくれました。
胸に深く深くしみこんで涙を押さえることが出来ませんでした。

この本には さまざまな人物が登場しますが、ひとりとして「悪い人」はいないように見えます。 みな一生懸命の善意の人のように見えます。 だけど、どの話も うら寂しいひっそりとしたお話です。 いくつかを除いて・・・

それが 人間の寂しさ、人生の淋しさのようなものを浮かび上がらせます。

中でも 一番 印象深いのが、「白いロケットのおりた街」です。

今もこの本のいくつかのおはなしは、読むたびに相も変わらず涙を呼んでしまうのです。

だけど それは 人には秘密です。