僕はまるでちがって
僕はまるでちがってしまったのだ

なるほど僕は昨日と同じネクタイをして

昨日と同じように貧乏で

昨日と同じように何も取柄がない

それでも僕はまるでちがってしまったのだ

なるほど僕は昨日と同じ服を着て

昨日と同じように飲んだくれで

昨日と同じように不器用にこの世に生きている

それでも僕はまるでちがってしまったのだ

ああ

薄笑いやニヤニヤ笑い

口をゆがめた笑いや馬鹿笑いのなかで

僕はじっと眼をつぶる

すると

僕のなかを明日の方へとぶ

白い美しい蝶がいるのだ

黒田 三郎

詩集「ひとりの女に」所収

「現代詩文庫」思潮社

これも最後の2行が燦然と輝いている。 

なんという鮮やかな2行。